印刷業界は残業の多いブラック業界として、密かに有名です。
とくに近年では出版不況や、IT・WEB媒体での情報普及に伴い、印刷業界は逆風に立たされている斜陽産業だとも言われております。
一見、紙媒体・印刷の仕事は安定して楽そうな仕事に見えますよね。
印刷業界の離職率
まずは、印刷業界の離職率を紹介していきます。
離職率は信頼できる情報源である「厚生労働省ホームページ」「四季報」を参考にしています。
印刷業界新卒3年以内の離職率
印刷業界は総務省規定の産業分類(大区分)では「製造業」に含まれます。
参照リンク:総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)
製造業自体は「自動車業界」「大手家電メーカー」なども含み、日本の高い技術力を支える業種ですので、離職率は低い傾向です。
・新卒3年以内の製造業の離職率
しかし「印刷関連業」に絞って見てみると製造業の平均離職率40%以上も辞めていることがわかってきます。
・新卒3年以内の印刷関連業の離職率
印刷業界3年後以降の離職率
印刷業界の3年後離職率を見ていきますと、国内最大手の印刷会社である「凸版印刷」と「大日本印刷」以外の離職率の高い傾向が目立ちます。
【印刷業界の離職率】
凸版印刷…8.8%
大日本印刷…8.9%
共同印刷…25.0%
図書印刷…20.0%
ただし、このデータに関しては、一部大企業・大卒入社組のみを対象としていることには注意が必要です。一般的に、企業の規模が小さければ小さいほど離職率は高くなる傾向があるため、中堅以下の印刷会社では離職率はもっと上だと考えておきましょう。
印刷業界の平均年収
経済誌「四季報」で印刷業界の平均年収を見てみると、意外と低くはないことがわかってきます。
【印刷業界の平均年収】
大日本印刷…706万円(40.0歳) 従業員数9551名
凸版印刷…695万円(41.8歳) 従業員数10800名
図書印刷…607万円(41.8歳) 従業員数1289名
共立印刷…503万円(36.2歳) 従業員数1956名情報出典:「会社四季報」業界地図 2018年版
ただし、これも大手2社とそれ以外では平均年収に開きがあることに留意しておくべきです。また平均年収は役員報酬などで実際の平均よりも高めになる性質を考えておくと、実際の年齢あたりの年収は多くの方が少なめになります。
そうして考えた場合、東証一部の大企業クラスである「共立印刷」で「平均年収503万(36.2歳)」という数字は、低めの数字だと言えます。東証一部上場クラスですらこの平均年収ですので、中小企業ですとさらに年収が低いと予想されます。また、後述する「印刷業界は年々業績が下がっている」という事実を考慮しておくと、今の若年層が同年代に達した際の実際の年収額はさらに下がる可能性が極めて大きいでしょう。
印刷業界の将来性
次に印刷業界の将来性を見ていきましょう。すでに現場で働かれている方は痛感されていると思いますが、印刷業界の将来性は暗いと言っても過言ではないでしょう。
主要印刷会社の業績や業界全体での総売上を見ても、ここ18年間で4割弱・3兆円規模で縮小しています。今後も情報媒体がIT・WEBに移行していくことを考えますと、どんどん縮小していくと見ていいでしょう。
情報出典:「会社四季報」業界地図 2018年版
ただし、この印刷業界不況の中でも、販路拡大や他事業への着手で業績を伸ばしている企業がいる事実も見逃せません。ただし「業績・売上ともに増加」という企業がほとんどない傾向を見た場合、考えられる経営方針としては「従業員のコストカットによる利益増減」「一時的な需要増加による売上向上」など、従業員にとって必ずしもプラスになるものではないことを留意しておくべきでしょう。
印刷業界の主要取引先(受注先)も年々下降傾向
印刷業界の業績悪化の背景には、主要取引先となる出版業界の不況も大きな原因となってきています。
また、もう一つの主要取引業界となる「広告代理店」の動向にも注目しておかなければいけません。広告代理店は業績はいいものの、大手である「電通」の過労死者まで生み出すような残業体質は、世間的にも有名になりました。出版会社・印刷会社の総元請けとも言える広告業界の働き方に合わせて下請けの働き方まで決まるわけですが、これが印刷業界で残業が減らない原因ともなっています。
自社の主要取引先がどの会社・業界であるかを見極めておくことも、今後印刷業界で働き続けるか否かの判断に非常に重要になってきます。
IT・デジタル事業の逆風に対応に遅れるばかり…
印刷業界の将来を考える際に、一番の不安要素となるのが「デジタル情報媒体のさらなる市場拡大」「技術革新による業務効率化」によって、印刷業界の情勢が激変してしまうリスクです。
1990年代の「DTPの登場」とインターネット・スマホ普及による「情報媒体のデジタル化」により、印刷業界が大打撃を受け、約20年で4割以上の業績ダウンをした経緯は忘れてはいけません。今後、AIなどの技術革新によってDTP業務が劇的に効率化されることがあれば、印刷業界の仕事も将来的にはほとんどなくなってしまうことすら考えられます。
とくに印刷業界で技術職となるDTP関連の職種の方は、若いうちにWEB・IT技術を身につけておき、柔軟な働き方の出来る選択肢を確保しておくことが課題になるでしょう。
印刷業界の労働環境
印刷業界の労働環境は年々悪化傾向です。
- IT・WEBによる効率化による、紙媒体の需要低下(印刷物の需要低下)
- IT技術革新普及による、印刷業界内の業務効率の格差(働き方の相対的非効率化)
- ネットプリントなどの登場による低価格競争化(印刷物顧客単価のデフレ化)
経営目線で考えれば「顧客減少」「生産性の低下(非効率的な業務)」「低単価」という、非常に苦しい状態が続いており、劇的な改善策は見込めません。
にも関わらず、高品質・高精度の仕事を求められる印刷会社は「良いものを安く」という状態から抜け出せず、非常に労働環境が悪いのが実情です。とくに下請け企業や現場で働く人々は過酷な労働を強いられています。
また、輪転機などによる事故のリスクも忘れてはいけません。ただでさえ長時間労働が常態化している印刷業界は、人的ミスによる死亡・重症のリスクと隣り合わせなのです。
去る3月22日京都市右京区の印刷会社プリントパックで入社してわずか一ケ月半,希望溢れる26歳の青年労働者が菊全判8色機の大型印刷機デリバリ部分(排紙部分)に頭を挟まれ死亡する労災事故が起こりました。京都市域ではこの20年間で2度目の死亡労災事故です。
関連:印刷労働現場の長時間労働と労災死亡事故
印刷業界の人間関係
印刷業界の人間関係は決して悪いものではないと言えます。もともと、製造業などの職人気質の仕事では穏やかな性格の人が集まりやすい傾向があるからです。
しかし、以下のような特徴がある場合は、人間関係が悪くなってしまう可能性が考えられます。
- 人の良い人達が集まってはいるものの、残業時間や待遇条件は良くない
- 体育会系の営業や経営者が集まり、現場作業員のストレスが異常
前者はとくに小規模の職場に多い傾向で、特定の顧客との太い関わりを持つ会社が多いので、待遇に目をつむれば悪くはない環境と言えるでしょう。ただし、経営が悪化したときにブラック企業になってしまい「みんなが頑張っているから…」と辞めにくい環境になってしまう恐れもあります。「周りがいい人たちばかりだから…」と流されず、冷酷に離れる意志の強さも持っておくべきでしょう。
後者はうつ病・過労死のリスクが高くなる職場の典型例です。印刷会社は小規模経営の会社も少なくなく、現場の苦労など理解しようともしない身勝手な上司や経営者もいます。その場合、ただでさえ良くない待遇に加えて、精神的に追い詰められてしまいかねない結果になります。この場合は早々に見切りをつけて辞めましょう。
印刷業界は辞めたほうがいいのか?
印刷業界を辞めたほうがいいかどうかと聞かれれば、将来性に期待できないので若い方は転職をしっかりと見据えたキャリアプランを練り直すべきでしょう。ただし大手二社のように、地道な販路拡大や事業拡大で売上を維持している会社もありますので、自分の会社に将来性があるのかどうかを見極める必要もあります。
また、お役所仕事などを見ておけばわかりますが、日本の企業や公共事業は今後も紙や印刷物を使い続けていくでしょうので、自社の主要取引先を把握しておくことも大切です。BtoB(企業と企業)が主な販路の印刷会社であれば、取引先次第では今後もしばらくは安泰でしょう。
問題はBtoC(企業から消費者)の印刷会社です。あるいは発注先が理不尽な要求をしてくるような会社ですね。とくに最近ではネット印刷の登場で印刷物の低単価化が進んでおり、現場で働く人はますます苦しくなってきています。
すでにご紹介している通り、印刷業界は業績が下降傾向で過酷な労働環境になりやすい構造になっていますので、今の職場がキツイ・割に合わないと思うのであれば、転職についてしっかり考えておきましょう。
印刷業界から抜け出し転職するには?
ここからは印刷業界から抜け出し転職するコツをご紹介していきます。
印刷業界は厳密には「製造業」に含まれすので、転職に関しては注意が必要です。というのも、製造業は日本の終身雇用ともっとも相性いい組織構造であり、転職に対してあまり前向きな業界ではないからです。
とくに印刷業界で技術職の業務にあたっている方は、転職は厳しくなると覚悟しておきましょう。なぜなら印刷に関する製造技術を持っていても、他の製造業ではほとんど役に立たないからですね。
ただし、最近では「派遣社員の受け入れ」「業務範囲切り離しによる外注化」などで、未経験からの中途採用の受け入り口も増えています。場合によっては派遣社員という雇用形態を前向きに受け入れる必要もあるでしょう。
一般職(営業・事務・総務・経理)の場合
印刷業界は古風で体系的な組織構造の会社が多いため、一般職に分類される方も大勢いらっしゃることかと思います。
一般職(営業・事務・経理)の場合は「職種自体が経歴として評価される」ため、印刷業界から他業界へ転職することは十分可能です。とくに大手転職サービスを利用すれば、業界に関わらず「職種と勤務経歴」が機械的に判断されるため、実績や今いる業界関係なしに転職先候補が見つけられます。
面談で採用を勝ち取れるかどうかは、本人のポテンシャル次第ではありますが、転職エージェントなどでプロからアドバイスを受けておけば、印刷業界から抜け出すことは比較的容易な職種だと言えるでしょう。
SE(システムエンジニア)の場合
印刷会社には、社内システムや機器管理に関する業務を担当する「システムエンジニア」もいます。このシステムエンジニアについても、技術力や専門知識さえあれば比較的転職しやすい職種だと言えますね。
なぜなら、多くの会社にシステムエンジニアという分類の職種は存在するから。
とくに「メイテックネクスト」というエンジニア専門の転職サービスでは、製造業特化の転職エージェントとして専門性の強い転職支援を行ってくれます。親会社である「メイテック」自体、製造業界随一の人材派遣業として有名ですので、印刷業界からの転職を考えるエンジニアの方は必ず利用しておきましょう。
DTPオペレーターの場合
印刷業界での末端の作業員となるのが「DTPオペレーター」と呼ばれる、紙面構成や印刷物の品質管理を担う技術者です。DTPオペレーターの場合、残念ながら異業種への転職は非常に厳しいと言わざるを得ません。客観的に見て「品質のいい印刷物を仕上げる工程に関わる技術者」の市場価値は低いからです。他の業界に転職したとして、今までの技術や経歴が活かせる機会は少ないと言ってもいいでしょう。
ただし、担当している業務範囲のアピール方法や、独学での技術取得によっては、転職の可能性は広がってきます。とくに考えられるのは以下の方法などです。
- クリエイティブな能力が必要とされるデザイナー職を目指す
- WEBコーティングを学び、WEBデザイナーを目指す
- 印刷業界の経験と知識を活かし、営業・販売・企画などの別の職種に挑戦する
もともと、技術職の再就職支援は「関連性の強い技術の再習得」という方法が一般的です。とくにDTPの移り変わり先となるWEBデザインを学んでおくのは現実的な選択肢と言えるでしょう。
あるいは「DTPデザイナー」としてクリエイティブな業務を行っている方は、ポートフォリオ作成に力を入れ、デザイナー職を目指すのもいいかもしれません。実力主義の傾向のあるデザイン業界ですが、堅実にDTP作業をこなせる即戦力人材の需要も一定数あります。自分でアイデアを出すのが苦手な方でも、技術力と実務経験があれば転職の可能性はあるので、挑戦してみる価値はあるでしょう。
DTPオペレーターとして管理職的立ち位置の場合は、年齢も高めになってくるでしょうから、転職先へのアピールの仕方なども工夫が必要になってきます。非常に険しい道になることは間違いないので、多数の転職エージェントで相談して自分のキャリアを評価してもらい、地道に転職情報を探していくしかないでしょう。
どの方法にせよ、独学での勉強や技術習得で価値のある人材となるか、あるいは地道な転職活動で自分の経験を活かせる会社を見つけ出す努力が必要になってきます。
まとめ:印刷業界の転職は早期の決断を
経済・社会、あるいは技術分野など、どの視点から見てみても「印刷業界に将来性がある」という前向きな結論は出せません。実際に、業界内で働く人たちの悲観的な声についても、とくに印刷業界は頭一つ飛び抜けています。その背景には、印刷業界が落ちぶれていく様々な社会的要因があるわけです。
大手二社の「大日本印刷」「凸版印刷」ですら総売上は赤字、業界全体で見ても業績は下がりっぱなしです。加えて、出版・広告代理店などのクリエイティブ業界の残業当たり前の業者が主要な顧客となるため、業界全体に「残業は当たり前」という習慣が残り続けているわけです。
業務改善に向けて、ITツールの活用なども取り入れられてはいるものの、根本的な解決は見込めません。これからさらにIT・WEBでの情報媒体が主流になっていくことを考えると、若者が印刷業界で働き続けるメリットは低いと言えるでしょう。
転職サービスを利用してプロのサポートを受ける
以上のように、「印刷会社を辞めたい」という悩みに対し、一概に「これをすべき」という正解はなく、それぞれの状況に合わせて最適な行動を取捨選択する必要があります。つまり、多くのことを考えて計画的に行動する必要があるのです。
それを在職中の考える余裕がないうちに行うのは、かなりハードだと言えるです。
そこでオススメしたいのが、転職サービスでプロに相談してサポートを得るという方法です。