「名ばかり管理職」
管理職権限も与えずに肩書きだけ「管理職」にして、法律の穴を抜けて長時間残業させたり賃金カットできるため、社会問題ともなっている言葉です。
そのため「責任は重くなったけど、残業代と給料が減った」という状態が発生します。
名ばかり管理職の疑いがある人の特徴
- 毎日10時間以上にも渡る長時間労働をさせられている
- 経験の浅い新人なのに管理職に任命された
- 管理職になると同時に実質的な時間給が落ちた
- 管理職なのに経営や人事に関して一切意見が出来ない(経営者の指示を部下に伝えるだけの役割)
この名ばかり管理職ですが、法的手段に出れば「未払い残業代の請求」もできる違法行為ですので、身に覚えがあるなら知っておくべき社会問題でしょう。
この記事では「名ばかり管理職」の問題点と対処法、またリスク管理としての転職活動方針などを交えてご紹介していきます。
名ばかり管理職とは?
「名ばかり管理職」とはその名の通り、管理職権限を形だけ与えて、企業側の都合のいいように使い倒すための「偽装管理職」のことです。
名ばかり管理職とは?
権限もないのに肩書だけ管理職にすること。偽装管理職です。労働基準法41条で、管理監督者には労働時間規制を適用しなくてもよい、とされています。これを悪用して、管理監督者としての権限もないのに「店長」などの肩書だけをつけ、残業代を支払わず際限のない長時間労働を強いるのは、違法行為です。
出典:たたかって職場変え6年ぶりの復職/「名ばかり店長」で働かされた清水さん/労働時間短縮、残業代も支給|しんぶん赤旗-日本共産党
「名ばかり管理職」を悪用されると、平社員よりも待遇が悪い状態に陥るどころか、管理職の「労働時間の制限を受けない」という性質を悪用し、1日10時間労働や月350時間もの労働など、法外な労働時間を押しつけられる結果となります。
その上、残業代も支給しない会社もあるため、実質サービス残業扱いになるケースも。
「管理職」という立場を都合よく使い労働力を搾取できる
「名ばかり管理職」とは「企業側が都合よく使い倒すための管理職」とも言え、本来管理職が得られる立場や待遇・給料、あるいは仕事のやり甲斐を一切与えられないわけです。
とくに、支店・職場が別となる「店長職」は「名ばかり管理職」という立場を悪用しやすく、長時間労働で体調を壊す人などが現れ、有名企業でも訴訟に発展するケースが多々あります。
・名ばかり管理職(店長)の違法判例
コナミスポーツクラブ
コナミスポーツクラブ(東京)の元支店長の女性が、管理職と見なされ、残業代が支払われないのは不当だとして、同社に未払い分など約650万円を請求した訴訟の判決が6日、東京地裁であった。佐々木宗啓裁判長は支店長を「名ばかり管理職」と認め、制裁金にあたる「付加金」も含め約400万円の支払いを命じた。
日本マクドナルド
日本マクドナルドの直営店(埼玉県熊谷市)店長が、会社側が店長を「管理監督者」とみなして残業代を払わないのは違法だとして、未払い残業代などの支払いを求めた訴訟の判決が1月28日、東京地裁であった。斎藤巌裁判官は原告の主張を認め、過去2年分の未払い残業代など約750万円の支払いを命じた。この判決はホワイトカラーエグゼンプションの歯止めともなりそうだ。「1個人が、こんなに大きな会社に対して訴訟を起こしても、仕事をしながら勝てる裁判がある」と述べる高野夫妻の勝訴日をルポした
また、悪質な例では「社員全員に役職を与え、無制限に働かせる」という悪質な方法をとっている会社もあり「名ばかり管理職」を悪用する会社のモラル・倫理感の無さがうかがえます。
都内のしにせの外資系企業で管理職だった男性(39)は05年、新興の外資系IT企業のマネジャーに転職した。「年収は2、3割アップ。会社が大きくなれば部門を率いる地位に」と誘われたのだ。
入社したら、社員は全員マネジャーなどの肩書付きだった。厳しい納期でプロジェクトを任され、午前1時、2時まで働いたが、「管理職だから」と残業代は 出ない。終電を気にせず働けるようにと、遠くに住む社員は会社が引っ越し代を負担して、職場の近くに転居させられた。
名ばかり管理職の問題点【当事者目線】
以上の説明や事例だけ見れば「名ばかり管理職」がいかに問題かはおわかりいただけるかと思います。
しかし、より名ばかり管理職の危険性を知っていただくために、今度は当事者目線で問題点を深掘りしていきましょう。
拘束時間が平社員より長い
名ばかり管理職の最大の問題点は、拘束時間(労働時間)が長くなるという点にあります。
訴訟になった事例を見てみましても「1日10時間以上週6日勤務」「1ヶ月350時間労働」など、異常なケースも多く、以下に企業側が労働者を都合よく使い倒すための名ばかり管理職であるかがわかりますね。
本来、管理職の拘束時間が定められていないのは「経験ある社員が経営者の代わりとなって柔軟に働けるように」という意図であって、決して長時間残業をさせるためのものではありません。
残業手当が出ない(※ただし役職手当は出る)
名ばかり管理職は労働時間が長くなるだけに関わらず、一切残業手当が出ないことも問題です。つまり、サービス残業として長時間働かなければいけないわけですね。
これは「労働基準法41条」にて、管理職(厳密には「管理監督者」)は、労働時間の制限がないからという理由になるからです。
労働基準法41条は,一定の労働者に対しては,労働時間・休憩・休日の規定が適用されない旨を定めています。これを「適用除外」と呼んでいます。具体的には,農業従事者・水産業従事者,管理監督者・機密事務取扱者,監視労働従事者・断続的労働従事者(監督官庁の許可を受けた場合に限る。)が適用除外の対象となります。
ただし「名ばかり管理職」の場合は管理監督者に該当しないにも関わらず、会社都合で「名ばかり管理職」に任命されること自体が問題ですので、違法性が高いということになるのです。
そして、この問題をより悪質にしているのは「役職手当は月数万円ほど支給される」という事情もあり、法律に詳しくない労働者からすれば「管理職になれば賃金が上がる」と錯覚させることもできるのです。
ブラック労働によるうつ病・過労死リスクが高い
名ばかり管理職になると、拘束時間が際限なく長くなる上に、低賃金で生活・健康にお金を使う余裕がないことから、うつ病・過労死のリスクが高くなりやすいです。
うつ病・過労死リスクが指摘されるのは、以下のような労働時間が目安となります。
労働時間の目安基準(36協定)
- 労働時間:1日8時間・週40時間
- 残業時間:1カ月45時間・1年間360時間
出典:36協定 – コトバンク
過労死ラインの基準(発症前2ヶ月~6ヶ月)
- 労働時間:1日12時間以上
- 休日:1日10時間勤務で4日の法定外休日出勤
- 残業時間:月80時間
- 1ヶ月の総労働時間:240時間
責任のある立場なので心理的に辞めにくい・相談しにくい
名ばかり管理職は、なまじ責任ある立場だけに辞めにくいのが問題です。
とくに「自分が休んだら現場が回らない」「売上を出さないと怒られる」というような方は注意が必要です。
本来、名ばかり管理職は管理職としての責任を果たす必要はありません。
なぜなら、その分の待遇も権利も与えられていないからです。
厳密には名ばかり管理職は違法であると同時に、ハラスメント行為にも該当するので、責任など感じずに堂々と辞めてOKです。
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残業代請求に訴訟・法手続きが必要
名ばかり管理職は違法ではありますが、残業代を請求するには最悪訴訟が必要になるケースもあります。
会社と話し合って解決できるのが理想ですが、現実はそう甘くありません。
仮に訴訟で残業代を請求できたとしても、会社と対立した結果自分の居場所がなくなることも十分ありえます。
どちらにせよ、名ばかり管理職になってしまった以上は、失うものが多すぎるというわけです。
「名ばかり管理職」になってしまった場合の対処法は?
読者の方が「名ばかり管理職」に該当する場合の対策について説明していきます。
会社と話し合って穏便に済ます
自分が「名ばかり管理職」の疑いがある場合、まずは会社と穏便に話し合って解決する手段を選びましょう。
決して会社が悪意を持って「名ばかり管理職」を行っているだけとは限りませんので、まずは上長に相談しておくといいでしょう。
ただし、経営者側が明らかな悪意を持って「名ばかり管理職」を運用していた場合、確実に対立するきっかけにもなりかねませんので、転職先の見当をつけておくor辞める準備や覚悟を決めた上で臨みましょう。
また、強気に出るためにも下記の「労働基準監督署に駆け込む」「弁護士に相談して裁判も辞さない」という選択肢を持っておくことも重要です。
法的手続を行う(未払い分の残業代請求)
名ばかり管理職の被害にあっている場合は、まず「労働基準監督署」に相談するのが現実的な手段でしょう。
労働基準監督署は公的な機関ですので、行政指導が入れば多くの会社は改善に向けて取り組んでくれます。
それでも「未払い分の残業代を請求できないor労働基準監督署が対応してくれない」となったら、弁護士に相談して訴訟を検討せざるを得ません。
当サイトでは法的な記述に関しては専門家の監修を行っていませんので、法手続きや訴訟の相談に関しては紹介する以下のリンク先を参考にしてください。
リスク管理も兼ねて転職活動もしておく
以上の対処法を見るとわかりますが、今の企業と争う形になりますので、転職活動も同時に行っておきリスク管理もしておくべきでしょう。
最近では「転職エージェント」を活用すれば、プロのサポートを受けながら最短3ヶ月のスピード転職も可能ですので、名ばかり管理職を悪用するブラック企業にこだわる理由は皆無でしょう。
名ばかり管理職が抱える「残業代が支払われない」「残業時間(拘束時間が多い)」「部下がいないので管理職経験が積めない」「仕事の裁量権がないのでやり甲斐がない」と言った問題は、転職すればすべて改善可能です。
また、どうしても転職活動の時間が取れない場合や、精神・健康面で限界の方は一度退職してしまうのも手かもしれません。雇用保険加入+1年以上の条件さえ満たしておけば、失業保険を受給しながら転職活動も可能ですので、選択肢は多く確保しておくに越したことはないでしょう。
失業保険は自主都合で辞めても、ハローワークで申請すれば受け取ることが可能です。
失業保険について→ハローワークインターネットサービス – 雇用保険手続きのご案内
店長職の場合の転職先候補は?
名ばかり管理職は店長職である事例が多めですが、店長職の多い小売・飲食業界は異様に離職率の高い業界として有名ですので、転職してもさほど不思議ではない職種です。
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若ければ営業職などの未経験職への転職も可能ですし、そうでなくても店長クラスとして他業界への転職も可能です。
関連:接客業からの転職はどうすればいい?サービス業・小売業・飲食業からの異業種への転職先はある?
ただし、管理職としてのホワイトカラー職への転職はやや厳しめの傾向があるので、高望みしすぎず現実的な転職先を見つけ出しておきましょう。
その他の管理職の転職先候補は?
店長職以外の名ばかり管理職であれば、過酷な経験を糧にしてキャリアアップ転職が可能かもしれません。
管理職クラスの転職は平社員と違い、間口が狭く条件も複雑になってきますが、その分自分に合った求人さえ見つけ出せればあっさり内定をとれる傾向にあります。
しっかり転職活動をしておけば、意外な天職に出会えるかもしれませんので、名ばかり管理職から抜け出して本当の管理職の立場を獲得しましょう。