今回はとくに相談の多かった「小売業(店長)」の転職に関してご紹介していきます。
小売業界は会社の大小関わらず、非常に離職率が多いです。
離職率とは「人が辞めていく割合」のことです。
各データから計算しても、ざっと以下の割合で辞めています。
新卒3年以内の離職率…約38.6%
3年後以降の離職率…約25%
このように、大手小売業は人が次々と辞めていくことで知られている業界なんです。
その理由は大きく分けて以下の通り。
小売業を辞めたくなる大きな理由
- 慢性的に人手不足の業界で社員の業務負担が増えやすい
- 現場と本社での温度差の生まれやすい組織構造
- お客・部下(アルバイト)・上長との人間関係の調整が大変で孤立しやすい
- 身につくスキルや達成できる目標がなく、モチベーションを維持しにくい
小売業の店舗では、アルバイト・パートで現場を回すことが多く、仕事の責任を請け負うのは社員である店長です。よって人員不足になるとシフトが回らず、勤務時間が長くなりやすいわけですね。
また、通常の会社と違い、店長クラスになると上司の背中を見て学ぶ機会が少ないのも、店長職が仕事のモチベーションを保てない大きな理由でしょう。
古典兵法書でもある「孫子」にも”自分より少し上の人を目指せ”と書かれていますが、小売業界では店舗ごとに仕事が任されているため、店長の上の役職であるエリアマネージャー・スーパーバイザーの仕事と触れ合う機会が少ないのも、社員が辞めやすいひとつの原因です。
今回は小売業界の離職率や業界構造などを解説した上で、小売業の転職についての見解をご紹介していきましょう。
小売業の離職率はかなり高い
冒頭にもお伝えしました通り、小売業界の離職率は非常に高いです。他業界と比べてみても、大企業クラスでも定着率が悪い傾向にあります。まずは具体的な数字を見てみましょう。
新卒3年以内の離職率…約38.6%
3年後以降の離職率…約25%
計算の早い方ならお気づきでしょうが、小売業では入社時点から半数以上が辞める計算になるわけです。原因については単純に「小売業自体が人が辞めても替えの利くビジネスモデルだから」の一言に尽きます。
小売業界の新卒3年以内の離職率
小売業界の3年以内の離職率はかなり高く、1年目では13.5%、3年以内には3割以上もの離職者が出ている業界です。また学歴別に見てみると、高卒ですと半数以上が3年以内に離職、短大卒でも実に45.3%が辞めていることがわかります。
【産業別・3年以内の離職率※大卒対象】
【学歴別・小売業界の3年以内の離職率】
大卒…38.6%(平均32.2%)
短大卒…45.3%(平均41.3%)
高卒…50.4%(平均40.8%)出典:
新規学卒者の離職状況 |厚生労働省
新規学卒就職者の離職状況(平成26年3月卒業者の状況)を公表します|厚生労働省
小売業の3年後以降の離職率
次に3年後以降の離職率を見ていきましょう。
【小売業の3年後以降の離職率】
小売業全体平均…25.0%
デパート(百貨店)…16.3%
コンビニ…24.1%
スーパー…26.9%
外食・中食…34.6%
家電量販店・薬局・ホームセンター…22.5%
その他小売業…24.8%
他業界が10~15%の離職率なのに対し、小売業界では倍近くの25%の離職率ですね。
一般的に3年後以降はキャリアアップ転職を目指す方と、定着して会社で昇進していく方に別れますが、小売業界では「店長以上の役職への昇進が困難」という事実に気づき、転職していく人が多いです。
また、小売業の中でもとくに「外食・中食業界」の離職率はすさまじく、ひどい会社ですと離職率60%以上の会社もあります。→飲食業界を辞めたい人向けの記事
一方で小売業の中では定着率が高めの「デパート(百貨店)業界」も、ここ数年の経営難に苦しめられており、若手の離職が目立っております。→百貨店業界を辞めたい人向けの記事
その他の小売業種に関しても似たような転職理由が多めですが、それぞれ業界ごとの内情があるので、個別に記事にまとめています。
小売業の平均年収は?
小売業の平均年収を業界別に見てますと全体的に低い傾向があります。
【40歳モデル年収の業界平均】
百貨店…452万円
ホームセンター・ディスカウントストア…479万円
家電量販店…479万円
外食…491万円
スーパー…495万円
繊維・アパレル…503万円
コンビニエンスストア…523万円
ドラッグストア…531万円
薬事法のおかげで利率の高いドラッグストア業界でも40歳平均531万円に留まっており、いかに小売業が低収入の仕事かがわかってくることでしょう。
小売業の将来性は?
次に小売業界の将来性について考えていきましょう。
小売業全体で見ると、業績は黒字の会社も多く、将来的な安定性はそこそこ高いと言えます。ただし、それは人件費削減・薄利多売という小売業のビジネスモデルだからこそ出せる数字だということを忘れてはいけません。
そして小売業は競合が激しく、会社の規模が大きいからと言って将来性がある会社とは断言できないという事情もあります。
会社同士の太いつながりのある製造業などの「BtoB(会社間取引)」と違い、小売業は「BtoC(会社と消費者の取引)」が収益源になるので、消費者のニーズが変われば10年先も安泰とは言えない業界です。
近年では「Amazon」「楽天」と言った通販サイトでの消費が増え、とくにAmazonはIT・AIを導入した効率的な業務で小売業の市場を着実に奪っており、まさに「将来、AIに奪われる仕事」の代表格が小売の仕事だと言えるでしょう。
また、会社の業績がいいからと言って、それが従業員にしっかりと還元されるかどうかは別の話です。小売業の利益は「人件費のコスト削減」から生み出されるものであり、会社の経営方針を見極め、働き続ける価値のある会社かどうか見極める必要もあるでしょう。
とくに小売の基本である「薄利多売」による価格競争デフレが原因で経営が苦しくなり、人件費削減を余儀なく求められる業界もあります。たとえば「牛丼チェーン」の価格競争脱却や「マクドナルド」の100円マックからの脱却などは、薄利多売から抜け出す有名な成功事例です。
薄利多売による価格競争デフレから抜け出す経営戦略をとっている会社であるかどうかが、今後も続けていくかどうかを判断する一つのポイントです。
小売業でのキャリアの限界を見極めておこう
小売業は「店長(店舗マネージャー)」で役職が頭打ちになりやすく、そこから年収もスキルも伸び悩むことがほとんどです。店長の上としては「エリアマネージャー(スーパーバイザー)」として地区単位の管理職として昇進できますが、これは数店舗で高い功績を残さなければ機会がなく、会社によっては学歴や年齢が評価の基準になることもあります。
それ以外の昇進コースはほとんどなく、現場で働く社員・店長がキャリアに限界を感じやすい最大の原因となっています。小売業本社勤めは、新卒採用組を重用している企業が多く、現場と本社での温度差のある業界構造でもあるので、若いうちに自分のキャリアに限界を感じたら転職を考えておくのも立派な選択肢のひとつと言えるでしょう。
小売業の労働環境は?
一部の企業の行き過ぎた過重労働のニュースにより、労働環境の悪いイメージのある小売業ですが、全体で見れば決して悪い労働環境とは言えません。
むしろ人材マネジメントが適性で、人件費やシフトがしっかりしている企業や店舗においては、比較的良好な労働環境になりやすいです。もし、今の仕事に余裕がある上での転職であれば、今一度自社の待遇や環境を見直しておくといいでしょう。
労働時間・休日について
小売業の月平均残業時間は16.3時間と、平均的な数字で収まっています。営業時間が限られている店舗が多いため、シフトさえ上手く回せれば残業時間は少なく済むことになります。
ただし、中には人手不足で月の労働時間が300時間以上を越えて過労死してしまう事例もあり、業界内でも落差が激しいと言えますね。店長職の場合、店舗で働く社員が自分一人になる事態もあるため、自分一人で抱え込みやすい性格の場合にうつ病を抱えやすいことにもなります。
他店社員との連携や、エリアマネージャー・スーパーバイザーと言った上長からのマネジメントがしっかりしている社風かどうかも、今の会社で勤め続けるべきかどうかのひとつの判断基準でしょう。
休日については、土日祝・繁忙期は休みが取りにくいという小売業特有の事情があります。有給取得数の平均も6.9日と少なく、まとまったプライベートの時間を確保しにくい業界だと言えるでしょう。「ワークライフバランス」の見直しを理由に辞めるのであれば、休日日数と有給消化率をしっかりと確認しておきましょう。
接客によるストレスによる向き・不向き
小売業で従業員のストレスとなりやすいのが、悪質なクレームによる精神的なストレスですね。とくに薄利多売の企業では客層が悪くなるため、悪質なクレームを受けて業務に支障をきたす恐れも指摘されています。
スーパーマーケット・コンビニエンスストア・百貨店など流通業界で働く人の70%が客から暴言や長時間の説教、土下座など謝罪の強要や晒しの脅迫といった悪質な行為などを受けた経験があることがわかっている。
5万人を調査した結果、仕事中に客による悪質な要求などの迷惑行為を受けたことがあると回答した人は3万6000人と悪質な客の被害経験者は全体の70%に上る。労働者として客に受けた迷惑行為の内訳(複数可能)が「暴言」が49%の2万4100人、「同じ内容を繰り返す」が29%の1万4200人、「説教など高圧的態度」が27%の1万3300人で、「セクシュアルハラスメント」が約10%の4900人。精神的負担による過労死にも繋がる心身への影響について90%近い3万3400人が「ストレスを感じた」と回答している。
会社の社風によっては「お客様は神様」「どんなお客でも接客対応は丁寧に」と過剰なサービスを重視する場合もあり、小売業で働く社員にとってクレームはストレスとして無視できない要素です。
小売業からの転職を成功させるには?
小売業界からの転職を成功させるためには、いくつかのコツがあります。
- 自己分析をしっかりしておき強みを把握する
- 転職先である企業研究・業界分析をしっかり行い、定着率の高い転職を目指す
- 未経験職(異業種)に就く場合は、現職の経験をフルに活かしてチャンスをつかみ取る
とくに小売業の待遇面や将来性に不安を感じて辞める場合は、転職活動にも自信が持てずに失敗してしまう方が多いです。
むしろ、店長クラスの経験のある方でしたら、少し背伸びして「私は企業から1店舗を任されるほどの人材だ!」と胸を張るぐらいで望みましょう。実際、小売業の店長はそれぐらいの経験値の得られる仕事ですよ。
同業界での転職を初めに考えておこう!
小売業勤務の方にまずオススメしたいのは、同業である小売業者に転職するという選択肢ですね。とくに今の労働環境や社風が合わないだけでしたら、転職すればすぐに店長クラスとして即戦力になるため、転職先としても受け入れやすく転職成功確率は高くなります。
他企業のノウハウを取り入れてみたい企業や、社風に合う人材を求めている企業など、店長クラスの転職に前向きな企業は少なくはありません。
当記事でも紹介している通り、必ずしも「小売=どの会社もブラック」というわけでなく、社内環境の改善や従業員満足度に力を入れている企業も多数存在します。
自分の可能性をつぶしてしまわないためにも、まずは自分の経歴を即戦力としてアピールしやすい小売業間での転職を考えてみるべきでしょう。
未経験の業種(異業種)の転職先候補は?
どうしても小売業以外の異業種に転職したい場合は、未経験職への転職になるためややハードルは高くなります。というのも、小売業は「BtoC(企業から消費者)」の仕事であり、一般職の「BtoB(企業から企業)」の取引とは違った経歴になるため、敬遠されやすいからです。つまり、会社側からすれば「企業同士でのコミュニケーション経験がない」と警戒されやすいわけですね。
20代のうちなら小売業から未経験職への転職は十分可能ですが、30代以降ですと厳しくなってきます。ただし可能性はゼロではないので、自分の経歴や強みをフルに活かしてアピールしていく必要があります。
小売業を辞めるなら転職エージェントを有効活用しておこう!
小売業を辞めて転職を考えている方は、転職エージェントでプロのキャリアアドバイザーから具体的なアドバイスをもらっておくと、転職成功率が高まることでしょう。私も過去に転職アドバイザーをしていましたが、小売業の方は企業間同士での取引・交渉経験がないため、面接でも自分の強みを活かしきれていない方が多く感じました。
転職は取引・交渉と言った要素も大事であり、上手く自分の人材価値を引き出せる自信がないのであれば、素直にプロの力を借りるのが一番ですよ。
転職エージェントでは完全無料で利用できて、とくに小売業の方は平日での面談対応もしてもらいやすいので、登録してみる価値はあります。