最近、ネット上ではインフルエンサーが流行に便乗して、恒例の不安煽りで「終身雇用制度は古い!」といつものネタで騒いでおりますが、私もおおむね彼・彼女らの主張の根幹には賛同はしております。
これについては、日本で最も従業員数の多い”大企業”の代名詞であるTOYOTAの社長が公言したことが大きいでしょう。
以下の記事などで「終身雇用はバブル崩壊時点で破綻してたのに、無理に寿命を延ばしているだけ」と説明しております。
ちなみに、記事タイトルの「終身雇用はいつ崩壊するのか?」という問いに対しては、
- そもそも、最初の経営戦略として破綻していた
- バブル崩壊時点で経済成長横ばいになって破綻した
- 内部留保のある大企業では破綻しない
…という回答になります。
(他にも諸説や見解はあるでしょうが、当記事ではこの3点に絞ります)
仮に1の「最初から破綻しているのに気づいているにも関わらず、終身雇用制度を採用した」のだとすれば、終身雇用制自体がウソもいいところなのですから、崩壊もクソもなく「前提自体が破綻していた」と言えます。
60歳の定年退職+退職金というゴールと餌を釣り下げておき、安い給料で新入社員を雇い入れて裏切らせないようにする…というのが終身雇用の最大のメリットなのですが、その大前提となり労働者の最大のメリットである「60歳時点での定年退職→年金支給」「退職金」が保証されなくなっているわけですから、当初の目的通り機能しなくなっていくのは明白です。
しかし、これは「一部の役員クラスであれば、退職金などの終身雇用のメリットは受けられる」ということにしておけば、企業側としては「終身雇用は健在だ」と主張できることになります。
(いわゆる「生存バイアス」がかかりますので、その競争倍率がとんでもない数字だとしても、新入社員は「自分は将来生き残れる人材だ」と信じ込んでいるわけです)
どういうことかと、見せかけ上は「終身雇用制を維持することは出来る」のです。
その場合、一部の正社員だけは終身雇用制度で保護し、そうでない末端の社員は非正規雇用者として使い捨てする…という形にはなります。
そして「ノアの方舟」の話のように、終身雇用制の恩恵を受けられる人物を少しずつ削っていきながらも、企業側は一人でも終身雇用制の恩恵を受けている社員がいれば「終身雇用制は続いている」と主張し、新卒生を青田買いし続ければいいのです。
他の99%以上の人材が非正規雇用者だとしても、
一人でも役員クラスの終身雇用の蜜を吸い続ける人材がいる以上、
「終身雇用制を維持している」という企業の言い分は、
決して「ウソではない」のですから。
ですが、実感としては多くの社員が割を食うのですから、そんな方便は通りません。
ですので、ここで取るべき方針としては「下の社員の賃金を上げて、大多数側の不満をなくしてやる」が定石なのですが、なぜか日本の大企業や経済界サイドはその策を頑なに行おうとはしません。
これに関しては、2006年の小泉政権下で切り捨て対象となった日本郵政の方ですでに「”同一賃金同一労働”の名の下、正社員の給料や待遇を下げる」という前例が出来てしまっている以上、経済界・政界サイドからそのように仕向けたい…という思惑が透けて見えております。
この日本郵政の例のように、年齢の経過と共に賃金と待遇を下げてもいいのであれば、終身雇用制自体は簡単に維持できます。
同様に、年金制度も法制度や税率を変えたり、あるいは貨幣を刷れば「所定の額、現金を支給する」という規定は守ることは出来ます。
…という風に、実は「数字上の利益=お金」「法規定」なんかはどうとでもなるので、実は終身雇用自体は「作られたもの=宗教」みたいなものだと断言してもいいレベルで虚像なのです。
さて、上記の説明を読めばおわかりいただけるかと思いますが「破綻しているものを見せかけだけで”維持している・守っている形”にしておく」というのは、実は簡単に出来てしまうのです。
そのため、いくら法律が変わっても劣悪な労働環境は改善されませんし、実感として「景気は上向き」だという政府の発表を素直に受け入れられる国民は多くはありません。
前置きが長くなりましたね。
上記のような事情や経済界・政界側の思惑(というか誘導したい方向)を踏まえますと、今後の日本の雇用環境はおおよそ以下の方向に向かっていきます。
- キャリアアップ転職を意識し、どこでも通用する人材層
- 成長中でなおかつ経団連に所属せずに、独自の成長を遂げる企業群に属する人材(外資系・IT系など)
- 破綻した終身雇用に必死にしがみつく中高年層や既得権益層(とそこに忖度する安定志向の若者)
- 上記のいずれでもない、非正規雇用者などの”意図的”に「成長出来ない」環境に追いやられた層
なお、下の二者は純粋に「能力・成長性」で見た場合に大した差はないので、転職市場では同じような扱いをされます。
(経歴があるのに実績やそれに見合う能力がなければ、ある年齢層からの転職は途端に厳しくなるという意味で…)
さて、この前提を踏まえた上で「いつ終身雇用は崩壊するのか?」という、最初から破綻した論理に気づいていない読者の疑問にお答えしていきましょう。
「終身雇用は厳しい」の見え見えの本音と思惑
経団連会長やTOYOTAの社長が「終身雇用制は厳しい」と公の場で発言したのは「特定の意図や思惑」があると思われますが、それは以下のツイートでざっくり指摘しております。
※誰もがわかりきったことを、わざわざ「公の場で明言した」ということは、何かしらの法案や政策を行う世論誘導の布石であることは想像に難くないはずです。
まともな経営者であればバブル崩壊時点(頭の良い人ならその前から気づいていた可能性もありますが…)、そうでなくても小泉政権下の派遣労働法案改正でどんなに鈍感な人間でも気づいていたわけですから、いずれにせよ「今さら、そんなわかりきったこと言われても…」の感が半端ないです。
私の場合、立場上「転職サイトを手がけて、なおかつ人材会社から報酬をもらっている」になるので、ポジショントークとしても「これから終身雇用制度は崩壊するので、増々キャリアを意識しておかないといけない時代になる」と言わざるを得ません。
ただし、それは様々な情報や現実を踏まえた上で本当にそういう確信があるので、単なる利益誘導というわけではなく、あくまで「自分の信念や確信に基づくこと」と「利益になること」でバランスをとりながらサイト運営しております。
(私自身、転職サイトを手がける中で得た情報やビジネス上のつながりから、自身の転職やキャリアを意識しているのも大きいです)
いずれにせよ、このタイミングで日本の最も従業員数の多い企業であるTOYOTAの社長がわざわざ「終身雇用は厳しい」と発言したことは、同社の従業員のみならず、日本の正社員全員に「覚悟を決めろ」「会社に甘えるな」という警告のメッセージを発したと言ってもいいでしょう。
その後、金融庁が「年金支給は厳しい」とわざわざ追い打ちをかけていることからも、政界・経済界側で「そういう方向に世論誘導したい」という意図が見え見えで、これはもう笑うほかありません。
また、これは権力者側にしてみれば「免罪符」「予防線」ともなります。
この二つの世論誘導は「終身雇用制に期待して会社に甘えるな」「年金だけに期待しないで投資しろ」というメッセージに集約されるわけです。
そうなると、経済界や企業、あるいは政府側としては国民に対して「あの時、しっかり警告したよね?」という免罪符が用意できたことになります。
…となると、今後、国がどういう方向に向かっていくかは、言うまでもないでしょう。
「自己責任論」の名の下、無能は切り捨てられていく
さて、上記のような事情や世論誘導を踏まえた上で、一番犠牲になるのはどういった層でしょうか?
私の見解では、以下の二つの層です。
- 破綻した終身雇用に必死にしがみつく中高年層や既得権益層(とそこに忖度する安定志向の若者)
- 上記のいずれでもない、非正規雇用者などの”意図的”に「成長出来ない」環境に追いやられた層
偽りの「終身雇用という名の幻」にすがっている安定志向の人間は、よほどの社内政治力があって役員クラスにでもなる目算がなければ、割を食う層でしょう。
転職を意識するのが遅ければ遅いほど、今の企業の安定性と転職のリスクを天秤にかけて行動するのが遅くなったり、あるいは家庭と仕事のしがらみも生まれ、精神的にも転職しにくい状態となります。
ただ、極論を言えば「正社員経験のある人材であれば、転職自体はさほど難しくない」というのも、また一つの事実です。
原則や基本さえ間違わずに、なおかつ賃金や待遇を高望みしなければ、いくらでも働き先はあるので「前の職場よりも悪い条件でもいい」と割り切れれば、転職はどうとでもなります。
さて、一番の問題は「働いているにも関わらず、非正規雇用者などの成長できない層」になってきます。
これは具体例を挙げるのであれば、
- 業務分割が為されており、責任ある仕事を任せられない非正規層
- ブラック企業で使い捨て同然に働かされている名ばかり正社員
- 他の業種・職種でツブシが利かない仕事を続けている人材
…などでしょうか。
このような人材層は、文字通り「報われない努力」を続けることになり、賃金も上がらない・キャリア的にも中々評価を得られないという不遇な目に遭うことになります。
ですので、早いうちに「今の職場で苦労し続けても、報われないかもしれない…」と気づき、ブラックな職場から抜け出す勇気も重要になってくるのです。
少なからず、終身雇用の主目的である「会社のために尽くせば、誰でもそこそこいい思いが出来た」という前提が崩壊しきっているのですから、労働者側にも会社に見切りをつける能力は必要になってきます。
で、そこで見切りをつける能力や判断則として大事になってくるのが「恩のある会社を裏切れる冷酷さ」「会社がダメだと悟ったら容赦なく縁を切る勇気」と言った要素です。
これは従来の終身雇用制の正社員には必要ないどころか邪魔な能力であったのですが「自己責任論」の名の下で会社の責任が問われない現代においては、むしろ必須とまで言える能力になってきています。
そして、皮肉なことに終身雇用制の方針に忠実な正社員ほど、割を食いやすい社会構造になっているわけです。
それは会社を信じた結果、ボーナスカットから中高年になってのリストラ、退職金の大幅カット、さらには定年退職後の労働という憂き目に遭っているサラリーマンを見れば、明らかな事実でしょう。
私の文章が冷酷で合理性一辺倒、性格の悪いクズな印象を受けるのであれば、それは読者にも「キレイゴトではやっていけない」「自分の身を守るためには冷酷な決断も必要」と知って欲しいからです。
私個人の感情としては「自己責任論で切り捨てるのはいかがなものなのか?」と思っている部分もあるので、そこに対する課題意識もあって、転職やキャリアに関する情報を無料メディア・コンテンツで多くの方の元に届くように努めております。
いずれにせよ、現実が「自己責任論=終身雇用を信じて真面目に頑張った人間を鼻で笑うような世の中」に進んでいるのですから、自衛の策として転職を意識しておくことは、得はあっても損はないはずです。
「どこでも通用する人材になる」という意識を持っておこう
以上のような事情を踏まえると、今後キャリア的にも生き残れる人材は、間違いなく「どこでも通用する人材=いつでも転職できる人材」になってくるはずです。
というよりも、企業が労働者を守らなくなってきている以上は、消去法で「今の会社が吹っ飛んだ時のリスクも考えておく」ことが前よりもずっと強くなってきているのです。
いずれにせよ、正社員終身雇用制度を前提として安定性を求めると、逆にリスクが大きくなる時代なことは、最近の経団連や金融庁の発表からしても火を見るよりも明らかです。
別に私は読者を脅すわけではなく、事実を言っているまでです。
仮に読者が会社の経営状況から決算・事業方針までしっかり把握していて「今の会社は潰れない確信がある」「自分は将来的には役員クラスとして生き残れる」という確信があるなら、終身雇用の考え方で安定性を求めてもいいでしょう。
ですが、そこまで考えてなくて「大企業勤めは安泰だから」「正社員になれば定年退職後まで働ける」となんとなく漠然と働いているのであれば、考えを改めるべきです。
政治家ですら「長生きはリスク」と同義の言葉を公の場で発言する国なのですから、働くことも一つの「リスク」だと捉えるべきです。
実際問題、今の日本の企業で勤めは、
- ブラック企業で消耗して判断力が低下して思考力を奪われるリスク
- うつ病から過労死などのリスク
- 退職金が出ない・リストラされるなどのリスク
…など、様々なリスクを抱えております。
幸い、私は時間もあり思考に時間を当てたり、そのための情報源を集める余裕がありますが、そうでない人は考える時間や転職活動に使う時間も奪われます。
もし、読者が「終身雇用がいつ崩壊するかわからなくて不安…」と悩んでいるのであれば、悪いことはありません。
早いうちに転職やキャリアアップに関心を持っておき、万が一の事態にしっかり行動できるようにしておきましょう。